『淫乱斎英泉』についての追記
セリフの多い芝居だった。特に英泉と長英にはたっぷりあって、上手い役者さんの語る長台詞に、存分に酔うことができた。

畳み掛けられるたくさんのセリフに浮かび上がるのは、平穏な日常に安住できないある男の人生。

彼は妹を愛していたのだろうか、……女として。妹お峯も、一見長英を慕い続けていたように見えるが、兄と長英のどちらを取るといわれたとき兄を選んだのは、純粋に身内の情だけだったのだろうか。

その兄妹と長英の長い長い愛憎に、それぞれの人生がゆがめられていく。

27歳の長英の素朴な訛りは、数年後にはすっかり影をひそめていたのに、逃亡生活の果てにお峯と真情をぶつけあう場面に至って、彼の口調に再びその訛りが紛れ込む様子に、なぜかとても感動した。

彼らと比べると、現実的なビジネスの成功を見据えた越後屋のしたたかさがいっそう際立つ。商人としての目線で、国の現状と、世の中の動静とを読み解こうとする越後屋に、生活者としての底力を見たような気がした。

逃亡生活の終盤、再び絵筆を取った英泉の絵を、一刀両断する越後屋。たぶんこの彼の目利きは正しいのだ。才能ある絵描きだった英泉を突き動かしていた衝動は、その時にはすでに、別の方向に向けられていたのだから。形ばかり昔の絵を模してみても、同じ力を持つ作品が生まれるわけにはいかなかったのだろう。

越後屋の女房に納まったお半。女郎でいた時も明るく無邪気で、ハッキリとモノを言っても、その悪気のなさから、どうしても憎めない。天然なのにどこか鋭くて、チャーミングな女。

彼女が長英に惹かれていたのはずっと昔のことだったはずなのに、江戸に舞い戻った長英と男女の関係をもつことになったのは、やはりそのときの思いを忘れていなかったのだろうか。女の膝にすがりつく長英を、かばうようにする様子に、彼女の懐の大きさが滲み出る。

さまざまな断片からまたさまざまな思いが見えてくる。演出家がこの脚本をシェイクスピアにたとえていたけれど、それもなんとなく判る気がした。
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by kiki_002 | 2009-04-12 23:00 | 舞台 | Trackback | Comments(0)
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