守りたいもの……
さて、この話題をここで語るべきかどうか、自分でもやや迷うところではある。そもそもこれはノンポリお気楽エンタメ系ブログのつもりだし。……でもまあ、ちょっとだけ書いてみたい気がするんだよね。

……何の話かと言うと、例の事業仕分けというヤツ。

国が行う事業のうち、何が必要で何が不要か。これまでの経緯やしがらみを度外視して客観的な視座から仕分けするというシステムには、確かに魅力を感じざるを得ない。しかも、上手いなぁ……と思うのは、これを公開で行うということだ。国民の目の前で行うことで、内部でのみ通用していた論理が通用しないということになる。テレビで観ていて、肯定的な印象を持つ方も多かったかもしれない。

事業仕分けというシステムや仕分け人に明確な権限はないとは言いながら、このご時世、国や自治体だって懐具合が苦しいのは我ら庶民とご同様。財政当局だって、この結論をもとに22年度予算の削減を行おうとしないはずはない……っていうか、そもそもそのためにやっているんだろうし。

しかし、いろいろな場面で使われる言葉だけれど、ここでも『総論賛成各論反対』という向きも多いことだろう。無駄を失くすことには賛成だし、客観的に洗い直すことはいいことだけれど、自分に関係がある予算を削られるのは困る……という。

なんでこんな話を始めたのかといえば、日頃楽しみに読んでいるいくつかの演劇人のブログで、この事業仕分けに関する記事を見かけたから。それぞれに表現の違いはあるけれど、この状況に危機感を感じていらっしゃることが伝わってくる文章で、ついつい自分も、これについて書いてみたくなったのだ。だからここでは、演劇に関する事業についてのみ、考えていきたい。

そりゃあもちろん、他にも議論すべき事業はたくさんあるだろう。

道路・上下水道・公園・河川・ダム・公共交通・まちづくり・通信・医療・福祉・産業・雇用・年金・教育・科学・スポーツ・国際協力、いやいや、文化や芸術の分野で言ったって、美術や音楽、舞踊、伝統芸能などさまざまなジャンルがある中、演劇だけに限る議論なんて、確かにいかがなものかと思ったりもする。国民の生活への影響を考えたら、文化、ましてや演劇への助成事業なんて些細な問題に過ぎない……と考える方も多いのではないだろうか。

それでも何かを言いたいという気持ちがあるとすれば、それはもしかすると単なる個人的な価値観や関心、もっと言えば感傷でしかないのかもしれない。だからここではただそういうものとして、それを記すにとどめておきたい。


……ある晴れた休日、狭い階段を降りて決して広いとは言えない劇場の客席に向かう。隣の方と肩の触れ合うような狭い空間にギッシリと詰め込まれて観た芝居の、そのインパクトや感動、そして充足感。

その劇場には『定員45名』と書いた紙が張ってあった。しかし、舞台に上がる役者さんは、10人以上いたはずだし、受付や誘導や、音響や照明やさまざまなスタッフの方もきっとそれなりの人数がいただろう。

こうして考えると、芝居というものは観客にとって、なんていう贅沢な娯楽なのだろう。たくさんの人間が長い期間準備をして、実際に上演されるときにも、さまざまな人間が関わり、しかもその完成した世界を目撃することができるのは、こんなに限られた人数でしかないのだから。

ビジネスとしてみるなら、こんなに効率の悪いものはないと言えるかもしれない。

いや、ビジネスとして成立している演劇も少なくはない。テレビで観たことのある芸能人が出演し、名前を知っている有名な演出家や作家が手がけ、キレイで快適な大劇場で上演され、当然チケット代もけっこうな金額だったりするような。

しかし、そうでない芝居もたくさんあるし、演劇というものをより広がりのあるものにしているのは、『そうでない芝居』の方かもしれない。

民間で出来ることは民間に、そういう思想はあるだろう。しかし、ビジネスとして成立しないものがイコール不要なもの……ではないはずだ。今回の事業仕分けにおける1時間の議論がすべてだとは誰も思っていないだろうし、もし思っているとしたらそれはそれで怖いことだけれど、教育や文化・芸術などのように効果を数字で表すことが困難な事業については、意外に簡単に斬り捨てられてしまうかもしれないという危機感を感じている人もたくさんいる。

ヨーロッパでは、日本よりずっと安いチケット代でクラシックのコンサートやオペラを観ることができるという。冬の長い夜、食事を済ませて家族や友人とコンサートホールや劇場に向かう、そういう社会を成熟した社会と感じるならば、やはり守らなくてはならないものがあるはずだ。

良質の芸術や文化をより多くの国民が享受できる社会。感動や喜びを気軽に感じることのできる国。そういう日本であって欲しいと思うのは、贅沢過ぎることなのだろうか。

今回議論されている文化庁や独立行政法人の助成金等が廃止または減額されることの影響が、どのくらい正確に認識され得るのだろう。

現在、文部科学省が事業仕分けについての意見を一般から募集している。それが、今後の予算の行方にどの程度影響力を持つのかはわからない。ただ私は、第一線で活躍する若い演劇人たちがそこへ彼らの意見を書き送っていることに心強さを感じたり、自分たちの信じていることを守ろうするその想いについつい感動したりしているだけだ。そして、それら多くの想いが、少しでもこれからの展開にいい影響をもたらしますように、と祈ってみたりする。


……長い割にまとまりのない文章で申し訳ないけれど、とりあえずこれは批判でも斯くあるべしという意見でもなく、ただ個人的な関心や感傷だということを、もう一度お断りしておく。
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by kiki_002 | 2009-11-22 23:04 | 舞台 | Trackback | Comments(2)
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Commented by モトリークルー at 2009-11-22 23:52 x
上手く表現出来ませんが とにかく 涙でました。ホント 仰る通りですね。考えなければいけない事は確かに沢山あるしそんな中で演劇を主に討論もしないですね。でもだからといって仕方ないで 片付けてしまいたくもない。kikiさんの演劇に対する熱い思い 凄く伝わりましたよ。嬉しかったです。今度は僕の番です。ブログに書き込みますので 又覗いてください。 ありがとう。
Commented by kiki_002 at 2009-11-23 00:09
実は書くのにけっこう時間がかかりましたので、
そう言っていただけるとうれしいです。

もしかすると今、いろいろなところで、それぞれの事業について、
多くの方が議論しているのかもしれません。

そうであるなら、この事業仕分けという仕掛けの意味は、
そういうところにもあるのかもしれませんね。

見直したり、考えたりする行為は、いつも無駄ではないはずなので。
だって、好きなんだもん!
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