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ドキドキさせてよ

だって、好きなんだもん!


by kiki

2009年に観た舞台についての雑感

2009年に観た舞台のうち、特に印象に残った舞台をいくつか、観た順に。


3月と4月に観た、柿喰う客の「恋人としては無理」。
美術も照明も音も衣装も、ひたすらシンプル。特定のアイテムを持つことで、特定の登場人物を演じていく手法が面白い。演じる役者が次々替わることで、一見感情移入を廃したように思われたが、実はかえってそれぞれの登場人物の輪郭がくっきりと浮かび上がった。1度だけ登場するイエスとヨハネの印象は鮮烈だった。終盤、使徒たちの思いが浮き彫りになっていく辺りの展開は圧巻。濃密で幸福な1時間5分だった。

5月は、DULL-COLORED POP#7.7『SHORT7』。
やや硬質の目線とざらつく手触りにときおり居心地の悪さを感じつつ、それぞれ違うタイプの短編のそれぞれの世界観の確かさと、成立し難いシチュエーションを成立させる力技にやられた。なかでも、「エリクシールの味わい」はインパクト大。あのスペースで、あのテーマで、生演奏つきのミュージカルって!多彩な女優陣と小林タクシーさんの怪演が、奇妙な物語に説得力を与えていたように思う。

7月の劇団扉座「新浄瑠璃 百鬼丸~手塚治虫『どろろ』より~」。
自分の好みから言えば2009年で一番ツボにはまったのはこの作品。横内謙介氏の作品は歌舞伎の方では拝見していたけれど、扉座の公演は初見。有名な原作を古典的な運命悲劇として再構成した骨太で力強い作品。時代物なのに主要な登場人物のほとんどがTシャツとジーンズに素足で演じていたり、恐ろしいはずの魔物たちがどこかユニークで可愛げがあったり、微妙な力の抜け加減がけっこう好き。浄瑠璃の使い方や舞台上で役者が打楽器を演奏する雰囲気もとてもよかった。

9月の柿喰う客「悪趣味」。
柿喰う客が2作品になってしまったけれど、考えた末にどちらも外せなかった。呪われた血筋や地方に伝わる伝説など伝奇小説風のおどろおどろしい雰囲気と場内アナウンスなどでのお遊びや内輪ウケすれすれのネタを畳み掛けながら、最後に残るのは、なんていうか、やっぱり愛。山姥風のメイクで熱演するコロさんが印象に残った。特に、深谷さんとの母と娘のやり取りが、素晴らしかったと思う。手法やテイストの好みを超越して観る者を惹きつけるクォリティの高さが感じられた作品。作りこまれた美術にも驚かされた。

番外として、2月のしゅうくりー夢「怪奇探偵丑三進ノ助~推して参る!~」。
好きな劇団の思い入れのあるシリーズだけに客観的な判断は難しいけれど、劇団の看板役者2人がしっかりと見せ場をつくって観客の心をつかみ、2組の悲恋とそれを見守る者たちのせつない思いが観る者の胸を打つ、満員御礼で追加公演まで出たのも納得のいく作品だったと思う。

こうしてみると、等身大の日常とか、口語的な演技とか、そういうのにあまり惹かれない偏った好みがバレバレ。まあこれは自分の場合、小説でも映画でも同じ。現実逃避といわれそうな気もするが、逃避するほど現実も日常も嫌いじゃないつもりなんだけど。どっちかというと、飛べない鳥が空に憧れるようなものじゃないかとも思う。

その他、花組芝居でアガサ・クリスティのミステリーを取り上げたり、「国盗人」の再演があったり、「十二人の怒れる男」が舞台化されたり、いやいやその他にも印象的な舞台はたくさんあった。ちなみに、一番泣いたのは劇団ZAPPAの「花 hana 2009」、一番笑ったのは「俺たちは天使だ!NO ANGEL NO LUCK~地球滅亡30分前!」だったと思う。


印象に残った『人』について。

扉座の累央さん。「百鬼丸」で観た佇まいの美しさと身体能力の高さ、その後に観た作品でのコミカルな演技などに、すっかりはまった。映像の仕事にも積極的に取り組んでらっしゃるようだけれど、やはり舞台で観たい方だと思う。2月に再演(正確には4演目)されるユニークな和製ミュージカル「ドリル魂」では主演ということで、歌やダンスも含めてご活躍が楽しみ。

昨年もお名前を挙げた堀越涼さん。「泉鏡花の夜叉ヶ池」の儚げなヒロイン、「藪の中」での一人七役、「NOT BAD HOLIDAY」でのややコミカルな演技など、幅広いご活躍。短編ながら、「地球の上で待ち合わせ」でのデリケートな恋慕の演技と怪しげなおっさんくさいエージェントの2役がそうとうツボ。併せて、ラジオドラマでの好演も印象に残った。

女性では、なんといっても柿喰う客のコロさん。イケメン女優と称されるカッコよさはもちろん、「恋人としては無理」で観せた無垢な美しさや「悪趣味」での迫力ある演技にすっかりやられた。ひょっとこ乱舞への客演や2008年末、ご自身が立ち上げたコロブチカというユニットの旗揚げ公演「proof」での好演も印象的だった。


こうして選んだり、それについてなんやかんや言ったりするのは僭越かもしれないと思うこともあるけれど、基本的に好きな舞台や人について語りたいだけなので、ご容赦願いたい。ちなみに、年間ベスト10を選ぶほどの本数は観ていないので、昨年同様3作品を選ぼうと思ったが選びきれず、結局4作品プラス番外1という中途半端な形になってしまった。

ここに挙げられなかった芝居にも、それぞれ思い出や思い入れがある。観ることのできたすべての舞台に感謝を。
by kiki_002 | 2010-01-02 22:21 | 舞台