人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

ドキドキさせてよ

だって、好きなんだもん!


by kiki

「国盗人」in兵庫

7月27日14時開演、兵庫県立芸術文化センターにて。

内装に木材を多用した落ち着いた雰囲気の会場。
朝6時過ぎに自宅を出て、12時前に到着。まぁ、ちょくちょく来るという距離ではない。

センター内のレストランで昼食をとり、開場を待つ。

公演日近くなってもチケットが残っていたので気になっていたが、
完売のため当日券はありません、という表示を見てちょっとうれしい。
1階席後方には補助椅子らしいものも出ていた。

開演は14時だけれど、その前にホワイエでビデオ上映が。
劇場のHPによれば「『国盗人』が100倍楽しくなる、プレ・レクチャービデオ」
開場が13:30、その5分後から上映するらしい。
が、手ぬぐい売り場とDVD売り場を眺めているうちに出遅れ、ビデオ前はすでに人がいっぱい。
椅子が並んでいる後方、人の頭越しにそれでも見えそうな位置を確保。

ビデオの中身はどうやら6月28日に世田谷パブリックシアターでやったポストトーク。
話の途中から、という感じでいきなり始まる。
後方だったせいか、話の内容が半分くらいしか聞き取れない。

でもまあ、たたんだ手ぬぐいでしきりに汗をぬぐう萬斎さんの映像を見ながら、
十字架の話や「実は皆さんは能を観たんですよ、と挑発したりして」などというお言葉を聞く。
15分程度の上映だった。

すでに劇場内に蝉の鳴き声が響き、いよいよだなあと思いながら席に着く。
センターブロックの9列目。たいへん見やすい。

通路が狭いためか、世田谷のように白石さんが客席の間を後ろから歩いてくるのではなく、
横の入り口から登場し、舞台に近づく。
白石さんが舞台の銃痕をしみじみ見たりしているとき、場内に携帯の音が。
電源切っとけよ!という数百人の心の声がいっせいに聞こえる(いや嘘です)。

前回、前から2列目で観て以来、すっかり主人公の悪三郎に感情移入しているため、
彼があの歩き方で登場してくるだけでドキドキする。

これまで、シェークスピアの悲劇は、誰にとって悲劇なのかわからなかったのだが、
主人公にとっての悲劇なんだなぁ、といまさらながら思う。

「いまのわたしは夢見る私、先のわたしの渡し守」という謡い。
悪三郎はいまの自分と違う自分でありたいと夢見ていたんだろうか。
2度目は白石加代子さんとともに謡う。
呪うことしかできない女達も、違う自分でありたいと夢をみたのだろうか。

たとえば悪三郎が杏をくどいたとき、自分が殺した杏の元の夫、見目麗しい王子様と呼んだ男への妬みを感じてはいなかっただろうか。

それに、彼自身が手にかけた幼い王子。
健やかで見目良い少年を殺したのは、王位への執着だけが動機だったのだろうか。

理智門に対しても?

それから、やはり痛ましいのは母とのやりとり。この戦で死ぬと言われ、
去っていく母に向かって、母上、と2度呼びかけるのを聞くだけで、せつなくなってしまう。

以前観たときと同じく、理智門との対比あたりから本当に悪三郎が哀れに感じられる。

決戦前夜、悪夢の中の悪三郎。
片手を胸に、もう一方の手は舞台の端をつかむ。その様子に胸が痛む。

薄っぺらな理智門の率いる一万の軍勢より、俺は影が恐ろしい……。
影はずっと彼の側にあったのに。

「馬をよこせ、馬をよこさば、国をやる!」叫びもむなしく、亡霊たちにつかまり、理智門の手にかかる悪三郎。
死の象徴である面を差し出す影法師に、抗うように首を振りながら仰け反るように倒れていく。

そして、静かに横たわる悪三郎から、面が落ち、ふたたび彼自身の顔がのぞく。

カーテンコール。
1度目は普通のカーテンコール。
しかし、次は悪三郎が王になったときに歌った曲が会場に流れ、
客席の手拍子に合わせてのご登場。

3度目くらいには、つい立ち上がってしまう。スタンディングオベーションなんて久しぶりだ。

萬斎さんが両手を上げ、観客に向かって大きく振る。
(この前は胸の辺りで小さく振っていたのだが)
舞台からはけていくときには、振り返って客席に投げキッス。

すっかり度肝をぬかれてしまい、友人に確認する。
「投げキッスしたよね?見間違いじゃないよね?」

う~、新潟にも行きたい!と思ってしまった。〈いや、行けないのだけれど)
by kiki_002 | 2007-07-30 03:17 | 舞台