しゅうくりー夢Vol.45「Father Christmas,Don't Cry ~2008 下北Ver.~」
2008年 08月 04日
平成20年7月31日~8月4日まで、下北沢の駅前劇場にて。
作・演出/松田環
出演/桃子:松田環、勘太(桃子の父):横井伸明、モモコ(子ども時代):宮田彩子
徹男(桃子の祖父):家入賢仁、駒田(隣人):原田治、
美代子:山本育子、五朗:青木拓也、圭悟(初恋の人):原美由紀
大野木:岩井はるみ、野村:鈴木香織
天使長ウリエル:黒川英和、見習い天使のジョー:島田朋尚
大好きなこの作品が、今日無事に千秋楽を迎えた。今回が最後の上演だと思うと、なおさら感慨深い。
ところで、『ママレンジ』という玩具をご存知だろうか?昭和44年にアサヒ玩具から発売された、いわばミニチュアのレンジなのだけれど、付属の専用フライパンで実際にホットケーキが焼けるというもので、発売から1年で約17万個も売り上げたというヒット商品だったらしい。
子どものころはこれに憧れたものだ。CMを見る限りでは、直径5センチほどの小さなフライパンでキレイな丸型のカワイらしいホットケーキが焼けるのだから。(聞くところによると、あまり温度が高くならないので、なかなか上手く焼けないらしい……)
このオモチャが、実はこの作品のひとつのキーワードになっている。
ヒロインである桃子の前に、ある日妙な男が現れる。名前はジョー。天使だと名乗り、桃子以外の人間には見えないらしいその男は、「あなたの願いを叶えるために来ました」と言う。
桃子はもうじき死ぬ運命にあって、死期の近づいた人間の願いを叶えるのが、彼の仕事だというのだ。
子ども時代に帰ってクリスマスパーティをやるために、過去に跳んだジョーと桃子。しかし、着いてみるとそこは昭和48年8月、夏の真っ盛りだった。桃子はなぜか、この真夏にクリスマスをやろうと言い出す。
桃子の父勘太がその夏、桃子がクリスマスプレゼントに欲しがっていたママレンジを買おうとして、煙突掃除のアルバイトをし、煙突から落ちて死んでしまうから。そして、その前日、ささいなことで喧嘩して、勘太に向かって「死んじゃえ!」と言ったことで、桃子はずっと自分を責め続けてきたから。
勘太を死なせたくない桃子。しかし、勘太が死ななければ、他の人間が死ぬことになるのだ……。
せめて、「死んじゃえ!」という代わりに、「大好きだよ」と言うことができたら……。でも、強情っ張りで、頑固で、なかなか素直になれないのは大人になった桃子も、子どものモモコも同じ。
勘太の死の前日、喧嘩しないで済むよう、楽しいことをしようと真夏のクリスマスパーティ。しかしそこで結局、モモコが「死んじゃえ!」と言ってしまう・・・…。もうとりかえしがつかないのだろうか?しかしその後、モモコの代わりにお父ちゃんへの気持ちを書いた手紙を読む桃子。冒頭はモモコが書いてあったものの、続きは桃子が思いを込めて語る。父と娘のお互いを思う気持ちが、桃子の読む手紙の中のエピソードから伝わってきて、観ていると涙腺が緩んでしまう。
モモコが、お父ちゃん大好きだよ!と叫ぶ場面では、観るたびに泣いてしまった。モモコの言葉に、「おう!」と答える勘太が大好きだと思ってしまうのは、桃子とモモコに感情移入しているから、なのかもしれない。
感情移入といえば、作・演出・主演の松田環さんと同世代なので、ママレンジだけでなくその時代らしいさまざまなモチーフにもすっかりやられてしまう。そうそう、そうなんだよ、そんなこともあったなぁ……、などという懐かしい気持ちが、物語にますます甘酸っぱいせつなさを加えているような気がする。
登場してくる人たちが皆それぞれに魅力的だった。
楽しかったかい?と桃子に訊ねるお祖父ちゃん。腕の立つ職人花鉄さんとボケてしまったお祖父ちゃん。どちらもチャーミングだけれど、特にボケてしまったお祖父ちゃんが、もうなんとも可愛いかった。
人のいいお隣の駒田さん。演じる原田さんの前作の御厨とのキャラクターの落差はスゴ過ぎる。もちろん、コミカルな役もとてもお似合いだった。
淡くほろ苦い初恋の思い出、圭悟くん。子どもだからこその真摯な思いが伝わる。
可憐な美代ちゃんと生真面目な五朗の純情な恋。突然の青森弁と突然のミュージカル仕立てに驚かされた。この2人の登場する場面では、なぜか勘太さんが寅さんになってたんだけど。
桃子の部下大野木と野村も、短い登場シーンの中、それぞれのキャラの違いが見えて楽しい。そういえば、今回はOL役なので、岩井さんのメイクテクニックが思う存分活かせただろう。そして2人ともちゃっかりしているようで、やっぱり『ロマンチック』なことが大好きな女の子なのだ。
意表を突かれたのは、天使長のウリエル様。あの衣装あの髪型あの口調。いやぁ、もうすっかり気に入ってしまった。特にあのしゃべり方。つい口をついて出てきてしまいそうだ。
ウリエル様の部下、見習い天使のジョー。数えで5歳という、まだまだ成長途中の、でも誠実で一生懸命な天使。
天使だけれど、思い込みも迷いも悩みもあって、それでも最後に桃子の手に「大変よくできました」のハンコを押してくれるあたりの優しい感じは、天使としての成長がうかがえた。
雪が降り、人々が楽しげに行き交っていった後、くるりと客席に背を向けたジョーの肩の小さな白い翼と、ゆっくりと両手を広げて天を仰ぐ見習い天使に降り注ぐ光。印象的なラストシーンだった。
意地っ張りで、強がりで、健気で可愛いモモコ。かわいいだけの子どもではなく、リアルな、自分の子ども時代を思い出すような、そんな少女。あの頃、何が大切だったか、どれだけ真剣だったか、観ているとそういう気持ちを思い出す。
大人の桃子は、しっかりもののキャリアウーマン。いまどきの若い者はぁ!とか言いながら、日々バリバリ仕事してるんだろう。しかも、お祖父ちゃんの食事も、自分の弁当もつくったり、一生懸命に生きてきた。
甘えるのが下手なのは、子どものときから変わらない。子どものモモコも大人の桃子も、強がって大切な人を失いそうになるのだけれど、そっと背中を押してくれる人がいれば、素直になれる。
そして、モモコのお父ちゃん、勘太。ろくでなしのごくつぶし、と人に言われるダメな大人……のはずなのに、不思議に魅力的な人。娘を大切に思う気持ちが伝わってきて、しだいにいとしく思えてくる。煙突掃除に向かう笑顔が切なく思えるのは、その日死んでしまう運命なのだと知っているからだろう。
同じく横井さんが演じる鏑木さん。桃子が3年付き合った元彼。3ヶ月前にプロポーズして以来、彼と連絡をとろうとしない桃子。ボケてしまったお祖父ちゃんのことも相談できずにいたのだ。好きなのに素直になれないのはどうしてなんだろう。
そして、あたたかなあたたかなエンディング。観た人はみな、幸せな気持ちで帰路につくだろう。やっぱり、しゅうくりー夢が好きだと思うのはこういうときだ。
千秋楽のラストシーンで、膝の上に舞い落ちてきた数片の紙の雪を、そっと手帳にはさんで持ち帰ってきた。やっぱりちょっと感傷的になってしまったようだ。
作・演出/松田環
出演/桃子:松田環、勘太(桃子の父):横井伸明、モモコ(子ども時代):宮田彩子
徹男(桃子の祖父):家入賢仁、駒田(隣人):原田治、
美代子:山本育子、五朗:青木拓也、圭悟(初恋の人):原美由紀
大野木:岩井はるみ、野村:鈴木香織
天使長ウリエル:黒川英和、見習い天使のジョー:島田朋尚
大好きなこの作品が、今日無事に千秋楽を迎えた。今回が最後の上演だと思うと、なおさら感慨深い。
ところで、『ママレンジ』という玩具をご存知だろうか?昭和44年にアサヒ玩具から発売された、いわばミニチュアのレンジなのだけれど、付属の専用フライパンで実際にホットケーキが焼けるというもので、発売から1年で約17万個も売り上げたというヒット商品だったらしい。
子どものころはこれに憧れたものだ。CMを見る限りでは、直径5センチほどの小さなフライパンでキレイな丸型のカワイらしいホットケーキが焼けるのだから。(聞くところによると、あまり温度が高くならないので、なかなか上手く焼けないらしい……)
このオモチャが、実はこの作品のひとつのキーワードになっている。
ヒロインである桃子の前に、ある日妙な男が現れる。名前はジョー。天使だと名乗り、桃子以外の人間には見えないらしいその男は、「あなたの願いを叶えるために来ました」と言う。
桃子はもうじき死ぬ運命にあって、死期の近づいた人間の願いを叶えるのが、彼の仕事だというのだ。
子ども時代に帰ってクリスマスパーティをやるために、過去に跳んだジョーと桃子。しかし、着いてみるとそこは昭和48年8月、夏の真っ盛りだった。桃子はなぜか、この真夏にクリスマスをやろうと言い出す。
桃子の父勘太がその夏、桃子がクリスマスプレゼントに欲しがっていたママレンジを買おうとして、煙突掃除のアルバイトをし、煙突から落ちて死んでしまうから。そして、その前日、ささいなことで喧嘩して、勘太に向かって「死んじゃえ!」と言ったことで、桃子はずっと自分を責め続けてきたから。
勘太を死なせたくない桃子。しかし、勘太が死ななければ、他の人間が死ぬことになるのだ……。
せめて、「死んじゃえ!」という代わりに、「大好きだよ」と言うことができたら……。でも、強情っ張りで、頑固で、なかなか素直になれないのは大人になった桃子も、子どものモモコも同じ。
勘太の死の前日、喧嘩しないで済むよう、楽しいことをしようと真夏のクリスマスパーティ。しかしそこで結局、モモコが「死んじゃえ!」と言ってしまう・・・…。もうとりかえしがつかないのだろうか?しかしその後、モモコの代わりにお父ちゃんへの気持ちを書いた手紙を読む桃子。冒頭はモモコが書いてあったものの、続きは桃子が思いを込めて語る。父と娘のお互いを思う気持ちが、桃子の読む手紙の中のエピソードから伝わってきて、観ていると涙腺が緩んでしまう。
モモコが、お父ちゃん大好きだよ!と叫ぶ場面では、観るたびに泣いてしまった。モモコの言葉に、「おう!」と答える勘太が大好きだと思ってしまうのは、桃子とモモコに感情移入しているから、なのかもしれない。
感情移入といえば、作・演出・主演の松田環さんと同世代なので、ママレンジだけでなくその時代らしいさまざまなモチーフにもすっかりやられてしまう。そうそう、そうなんだよ、そんなこともあったなぁ……、などという懐かしい気持ちが、物語にますます甘酸っぱいせつなさを加えているような気がする。
登場してくる人たちが皆それぞれに魅力的だった。
楽しかったかい?と桃子に訊ねるお祖父ちゃん。腕の立つ職人花鉄さんとボケてしまったお祖父ちゃん。どちらもチャーミングだけれど、特にボケてしまったお祖父ちゃんが、もうなんとも可愛いかった。
人のいいお隣の駒田さん。演じる原田さんの前作の御厨とのキャラクターの落差はスゴ過ぎる。もちろん、コミカルな役もとてもお似合いだった。
淡くほろ苦い初恋の思い出、圭悟くん。子どもだからこその真摯な思いが伝わる。
可憐な美代ちゃんと生真面目な五朗の純情な恋。突然の青森弁と突然のミュージカル仕立てに驚かされた。この2人の登場する場面では、なぜか勘太さんが寅さんになってたんだけど。
桃子の部下大野木と野村も、短い登場シーンの中、それぞれのキャラの違いが見えて楽しい。そういえば、今回はOL役なので、岩井さんのメイクテクニックが思う存分活かせただろう。そして2人ともちゃっかりしているようで、やっぱり『ロマンチック』なことが大好きな女の子なのだ。
意表を突かれたのは、天使長のウリエル様。あの衣装あの髪型あの口調。いやぁ、もうすっかり気に入ってしまった。特にあのしゃべり方。つい口をついて出てきてしまいそうだ。
ウリエル様の部下、見習い天使のジョー。数えで5歳という、まだまだ成長途中の、でも誠実で一生懸命な天使。
天使だけれど、思い込みも迷いも悩みもあって、それでも最後に桃子の手に「大変よくできました」のハンコを押してくれるあたりの優しい感じは、天使としての成長がうかがえた。
雪が降り、人々が楽しげに行き交っていった後、くるりと客席に背を向けたジョーの肩の小さな白い翼と、ゆっくりと両手を広げて天を仰ぐ見習い天使に降り注ぐ光。印象的なラストシーンだった。
意地っ張りで、強がりで、健気で可愛いモモコ。かわいいだけの子どもではなく、リアルな、自分の子ども時代を思い出すような、そんな少女。あの頃、何が大切だったか、どれだけ真剣だったか、観ているとそういう気持ちを思い出す。
大人の桃子は、しっかりもののキャリアウーマン。いまどきの若い者はぁ!とか言いながら、日々バリバリ仕事してるんだろう。しかも、お祖父ちゃんの食事も、自分の弁当もつくったり、一生懸命に生きてきた。
甘えるのが下手なのは、子どものときから変わらない。子どものモモコも大人の桃子も、強がって大切な人を失いそうになるのだけれど、そっと背中を押してくれる人がいれば、素直になれる。
そして、モモコのお父ちゃん、勘太。ろくでなしのごくつぶし、と人に言われるダメな大人……のはずなのに、不思議に魅力的な人。娘を大切に思う気持ちが伝わってきて、しだいにいとしく思えてくる。煙突掃除に向かう笑顔が切なく思えるのは、その日死んでしまう運命なのだと知っているからだろう。
同じく横井さんが演じる鏑木さん。桃子が3年付き合った元彼。3ヶ月前にプロポーズして以来、彼と連絡をとろうとしない桃子。ボケてしまったお祖父ちゃんのことも相談できずにいたのだ。好きなのに素直になれないのはどうしてなんだろう。
そして、あたたかなあたたかなエンディング。観た人はみな、幸せな気持ちで帰路につくだろう。やっぱり、しゅうくりー夢が好きだと思うのはこういうときだ。
千秋楽のラストシーンで、膝の上に舞い落ちてきた数片の紙の雪を、そっと手帳にはさんで持ち帰ってきた。やっぱりちょっと感傷的になってしまったようだ。
by kiki_002
| 2008-08-04 23:36
| 舞台