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ドキドキさせてよ

だって、好きなんだもん!


by kiki

Dotoo!「鬼の如く、地獄の如く、恋の如く~強くて熱くて甘いのですよ~」

平成21年3月21日19:00~、下北沢駅前劇場にて。

作・演出/福田卓郎

出演/
水野加織:二村愛、鴻池幸輔:松下哲、
水野健太郎:青木拓也

夏目漱石:平川和宏、芥川龍之介:片平光、
北原白秋:ヨシケン(動物電気)
平塚たいてう:三上綾、与謝野晶子:桜岡あつこ、
伊藤野枝:井川千尋(アロッタファジャイナ)、
菊池寛:デ☆ら、森田草平:片山裕亮

「立ち昇る情熱の香りは一杯五銭でドーナツつき」

1913年(大正2年)、銀座にブラジルコーヒーのカフェがオープンした。
芥川龍之介、高村光太郎、菊池寛、与謝野晶子、宮沢賢治、平塚らいてう、北原白秋など、多くの文士が通った大正ロマンに代表される珈琲文化発祥の地。「銀座にブラジルコーヒーを飲みに行こう」というのが「銀ブラ」の語源だとも言われている。店主はコーヒーの普及に命をかける男、集まる客は一筋縄ではいかない曲者ぞろい、何も起こらぬわけがない‥‥。

今回の物語は実在するcafe´をモデルに描く架空の珈琲譚。「鬼の如く強く、地獄の如く熱く、恋の如く甘く」というキャッチフレーズで売り出したブラジルコーヒーのような魅力にあふれた若者たちの情熱の香りをお届けします。(公式HPより)

     ※     ※     ※

しゅうくりー夢に何度か客演された青木拓也さんが所属する劇団、Dotoo!(ドトォ!)の公演を観に行った。

大正時代の文士たちっていうのが、まずけっこう好き。当時のカフェを舞台にした話なのだろうと思って観に行ったのだけれど……。

物語が始まってみると、どうやら時は現代。舞台はビルの地下にあるコーヒー専門店『オブリガード』の店内。大きな地震が起きて、地上への出入り口がふさがるという、大変な事態に直面しているのは、この店を経営する水野加織とその兄 鴻池幸輔の2人。加織の夫 健太郎は、地震の少し前に、銀行へと出かけたらしい。

しかし、大変なのは地震による被害だけではなかった……。

どういうわけか、夏目漱石を始めとする過去の文豪たちが、どこからともなく次々と現れ始めたのだ!この店の創立当時、常連だった者たちやそうではない者もいる。幽霊というにはリアル過ぎるし、そっくりさんだとしても、なぜここへ来たのかわからない。

まあ、何しろ面白いのは、けっこうイメージに似せながら、ちょっと外したところもある文豪たちのキャラクター。痩せぎすで繊細なイメージの龍之介が、妙に明るくてたくましかったり、夏目漱石が、やたらと例えに屁を使ったり、菊池寛がとてつもなく軽いノリだったり、観ていて思わずクスクス笑ってしまう。

そして、教科書や常識の範囲内で知っているよりディープな彼らの挿話がなんともドラマチック。自由恋愛・不倫・心中未遂、挙句の果てに、それを題材に小説を書いたり、生まれてきた子どもに魔子と名づけたり。会話の中から、そんな文豪たちの波乱万丈の生き方が次々と見えてくるのだった。

一方、経営不振のため、『オブリガード』を閉めようとしている加織とそれを止めようとする兄 幸輔。その状況と、文豪の人生が微妙にからみあいつつ、物語は進む。

銀行に行ったはずの健太郎が奥から現れ、この店を閉めるかどうかだけではなく、実はこの夫婦の間に問題があることがわかってくるのだが……。

健太郎は、飄々とした憎めないキャラクターで、ホントに浮気をしているのかどうか、なかなかその表情からはつかめない。そして、別れようという加織の真意はどこにあるのか。

ゲームを通して状況を打破しようとする幸輔の試み。真実と偽りと。不透明だった幸輔の動機と。

文豪たちはなぜ現れたのか。その後、加織や健太郎、そして幸輔たちはどうするのか。それは、舞台では語られずに終わっているけれど、なんとなくまあいいかという気になるのは、加織たちも過去の文豪も、この店を愛しているだなということが伝わってくるからかもしれない。

コーヒーのようにほろ苦い。甘くて、苦くて、火傷しそうに熱い、人生っていうのは……そういうもの?そして、過去の文豪たちはともかく、夫婦も兄弟も、それぞれの思いを抱えて行き続けていくのだろう。だからたまには、1杯のコーヒーでひと息、そんな時間も必要なのかもしれない。
by kiki_002 | 2009-03-22 21:05 | 舞台