人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

ドキドキさせてよ

だって、好きなんだもん!


by kiki

新国立劇場「氷屋来たる」

7月6日18時30分より、新国立劇場小劇場 正面センター近くの最後列にて観劇。

作:ユージン・オニール 
翻訳:沼澤洽治
演出:栗山民也

出演:市村正親/岡本健一/中嶋しゅう/たかお鷹/花王おさむ/大鷹明良/宮島 健/武岡淳一/小田 豊/久保酎吉/二瓶鮫一/明星真由美/野々村のん/岡 寛恵/伊藤 総/粟野史浩/木場勝己

翻訳劇だし、3時間45分と長いし、寝不足だし……。
眠くなるかな、とやや心配しながら客席に着く。

で、結論から先に言えば、眠くならなかった。
おもしろかった、と単純に言い切る舞台ではないのだろうと思うが、
少なくとも個人的にはおもしろい芝居だった。

冒頭、安宿の1階にある酒場、うらぶれた酔っ払いのおじさんばかり大勢舞台上にいて、
正直いって、う~んどうしよう見分けがつかない、と思った。
が、脚本がいいのかベテランのぞろいの役者さん達が上手いのか
早い段階でそれぞれの役に親しみを感じるようになる。

木場勝己さん演じる老いた元革命家ラリー(終始シニカルでかっこいい)をはじめ、
みな過去とつながる明日の夢を語りつつ、ただ飲んだくれる日々。

みんなが待っているのに、なかなか現れないヒッキー=市村正親。
やっと登場したヒッキーに、一気に店中の、いや舞台上と客席のテンションが上がる。
このあたりの市村さんはさすがと言うしかない。

しかし、ヒッキーの変わりようにとまどう酔いどれ連中。
観ているこちらも、なぜヒッキーが変わったのか、何があったのか気になってくる。

それから、いわくありげな青年、パリット=岡本健一。
やや挙動不審なのは、心にかかることがあるからだったようで、
ヒッキーの言動とシンクロしつつパリットの隠していたこともあらわになっていく。

ヒッキーに何があったのか、パリットは何をしたのか、
酔いどれたちがそれぞれ抱く明日の夢はどうなるのか。

そして、彼らはそれにどう決着をつけていくのか…・・・。

クライマックスでのヒッキーの長い告白。
そしてヒッキーが去った後、
残された酔いどれたちはまた自分と妥協しつつ、日常へ戻っていくのだと思った。

だが、最後にひとりパリットだけは、自分に決着をつけることになる。
演じていた岡本健一くん、鬱屈した表情で窓辺で膝を抱えていたりするさまは、
ホントに相変わらず美青年でした。
終盤のテンションの高い芝居はとてもよくて、最後まで観ると彼の哀れさが印象に残る。

哀れ……?
だが、パリット自身が最初からこの結末を望んでいたのではないか。
不自然なほどラリーを慕っていたのは、彼に断罪されるのをずっと待っていたのではないか。
パリットも、そしてヒッキーも、自分自身を偽ることに疲れていたのかもしれない。

芝居らしい芝居を観た、という気がする3時間45分だった。
by kiki_002 | 2007-07-07 12:55 | 舞台