人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

ドキドキさせてよ

だって、好きなんだもん!


by kiki

「国盗人」についての雑感

6月30日、7月7日と観てきた「国盗人」についてもう少し。

友人が、「以前観た『リチャード三世』はとても凄惨だったんだけどね」と言った。
だが、「国盗人」はもう少し軽やかで、そして主人公の非道さよりも、悲しみが印象に残る。

どんなに酷いことをしても悪三郎を憎むことができないのは、
彼の欲望がわかりやすく、彼の言動が終始ユーモラスであったからだろう。
多くの台詞に洒落や皮肉を含んでおり、何度もニヤリとさせられた。
その滑稽な言い回しや表情などは、狂言師たる萬斎氏の面目躍如というところだ。

2度目に観たときは、舞台に近い席だったため、表情がよくわかっていっそうおかしかった。

たとえば王になることが決まったとき、悪戯がうまくいったときの子どものような顔で、
「選ばれてあることの恍惚と不安とふたつ、我にあり。ヴェルレーヌ」
などと、言うものだから思わず吹き出してしまった。
ついでに「アデュー!」だなんて。

そんな悪三郎が、次第に追い詰められ、余裕を失っていくのを観ていると、
ついつい彼に感情移入していってしまう。

自らしてきたことの報いとはいえ、
女達の呪いを一身に受け、殺めてきた者たちの影に怯えるさまは哀れだ。

決戦前夜、舞台手前の悪三郎と、その向こうにいる理智門が、似たフレーズを繰り返すシーン。

掛け合いのように、それぞれの言葉を発する悪三郎と理智門の対比が、いっそ残酷に見える。
神と正義を信じ、背筋を伸ばし微笑みを浮かべ、味方を励ます理智門。
影に怯え、すでに誰も信じることのできなくなっている悪三郎。

勝利を予言する夢を見ている理智門の安らかな眠り。
一方、悪三郎は、亡霊に祟られてうなされ、苦しげに寝返りを打つ。
その時の彼の手がなぜか印象に残っている。

悪夢から目覚めた悪三郎の悲痛な独白。

~誰を恐れる?自分自身?他に誰がいる?いや、俺は自分を愛している。本当に?~

幾千もの兵士より影が恐ろしいのだというその心の闇……。

戦場で、馬を駆り狂ったように戦う姿や、馬を失い足を引きずりながらなおも戦おうとする姿。
いつの間にか、ずっと共にあった影法師さえ理智門の元へ。
そして死の瞬間。
死の象徴である面をつけ、ゆっくりと背を反らせて倒れていく様子は美しくさえあった。

そんなふうに観ていたものだから、アンコールで萬斎氏が笑顔を見せたとき
なんだかほっとしたのかもしれない。
by kiki_002 | 2007-07-10 01:06 | 舞台