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ドキドキさせてよ

だって、好きなんだもん!


by kiki

音楽劇『ガラスの仮面』

平成20年8月9日(土)13:30~、彩の国さいたま芸術劇場 大ホールにて。

原作/美内すずえ
脚本/青木 豪
演出/蜷川幸雄
作曲/寺嶋民哉

出演/北島マヤ:大和田美帆、姫川亜弓:奥村佳恵
桜小路優:川久保拓司、速水真澄:横田栄司、
北島春:立石凉子、姫川歌子:月影 瞳、
青木麗:月川悠貴、二ノ宮恵子:黒木マリナ、
小野寺一:原 康義、小林源蔵:岡田 正

月影千草:夏木マリ

あの国民的大河マンガ(?)「ガラスの仮面」の舞台化、しかも蜷川幸雄さん演出の音楽劇……。う~~ん、観たいような観たくないようなやや中途半端な気持ちながら、友人に誘われて観に行く。

開場して間もなく席に着き、なにげなく舞台を眺めていると、なにやら舞台上で作業をしている人が。いや、幕も降ろさずにこのタイミングで作業するだろうか?もしかするとこれも演出の一部か?と思っているうちに、バックステージツアーらしきグループが舞台に上がったり、客席通路からごく自然に舞台に上がって、着替えやウォーミングアップを始める人々もいて。

そのまましだいに舞台上の人数が増え始め、Tシャツやジャージなど思い思いの稽古着で、柔軟体操をしたり、走り始めたりしている。奥行きあるステージは、どうやら芝居の稽古場という見立てらしい。

開演時間になると、そのまま客電も消さずに、舞台上の人々が踊り始める。うわぁ、始まったよ、となぜか軽いショックを受ける。

ピアノの伴奏がついたり、バーレッスンが始まったり、発声練習やダンスレッスンなどをひとしきり。その中で歌を聞かせたりダンスを見せたり、なかなか気持ちのいいプロローグ。

そして1人の少女が、通路から舞台へとやってくる。ごく平凡な少女、北島マヤと伝説の大女優月影千草の出会い。学校でのお芝居や劇団オンディーヌの研修所などの場面を経て、千草のつくった劇団月影へ入るマヤ。

演技に対する悩みやライバル劇団の妨害などを乗り越え、演劇コンクールで観客を魅了するまでになるマヤの成長と、それを導いて行く月影千草の演劇への、そして「紅天女」への思い。

マンガのようにじっくり劇中劇を見せるのではなく、そこへ向かう情熱や舞台への愛、そしてヒロインのマヤがたったひとりで舞台に立ったときに感じた確信、舞台ではいつも誰かとつながっているのだという思い、などがこの芝居の焦点を明確にしている。

その場面でマヤとそして客席に広がった観客役の大勢の役者さんたちが歌う「ひとりじゃない」という歌を聴いて、ついつい涙がこみ上げてきてしまったのは、ヒロインの芝居への思いに共鳴してしまったからだろうか。あるいは観客としてでも、演劇という場に存在できることに喜びを感じたからだろうか。

演劇についてのストーリーを演劇で見せるメタ演劇ともいえる構造を支えているのは、奥行きの深いステージと客席や通路を縦横無尽に使った演出だろう。通路好き(?)の蜷川さんの演出といえども、こんなにも役者が客席や通路を使ったり、そこで歌ったりするとは予想もできなかった。

夏木マリさんをはじめとする主要なキャスト陣の力演と同時に、劇団オンディーヌや劇団月影、劇団一角獣などの劇団員を演じる大勢の若い役者さんたちが、芝居の内容とあいまって、とても魅力的に思えた。

そして、月影千草を支えてきた客席の喝采と、それによく似た雨の音の使い方が印象的だった。ステージ上には実際になんども雨が降って、ますますその印象を強めていた。

原作の絵を使ったパネルや最後の紅天女の飛翔など、原作へのオマージュを盛り込みながら、少女の成長物語やライバル同士の切磋琢磨する様子より、演劇というものへの愛情にポイントを絞った脚本と劇場を余すところなく使いこなす演出によって、自分にとっては予想をはるかに超える好ましい作品に仕上がっていた。

最後にひとつ、いつもながらミーハーなことを言わせてもらえば、ボーイッシュな美少女青木麗を演じていた月川悠貴さんが印象に残った。オールメールの芝居ならともかく、普通に男女とも出演している芝居で、女性の役を男性が演じていながら不自然さなどまったく感じさせず、原作の麗の中性的な魅力をしっかり伝えていた。

こうして思い返していると、もう一度観に行って、開演前のバックステージツアーに参加したり、通路を駆け抜ける人々を間近に観てみたいような気がしてしまう。そんな舞台だった。
by kiki_002 | 2008-08-09 23:54 | 舞台